仕事やプライベートの時間をやりくりするために、真っ先に削ってしまうのが「睡眠」ではないだろうか。また、年齢とともに、眠りが浅くなったり、目覚めが悪くなったりする人も多いに違いない。もう眠りで悩まないための、ぐっすり睡眠術をお届けしよう。

「睡眠不足の日が何日か続くと、明らかに記憶力や認知能力が衰える」と白濱院長。(©tomwang-123RF)
「睡眠不足の日が何日か続くと、明らかに記憶力や認知能力が衰える」と白濱院長。(©tomwang-123RF)

 徹夜をすると、ボーッとしてうまく頭が回らない―。それは決して気のせいではないようだ。睡眠不足は脳の働きに大きな影響を与える。

 「睡眠不足の日が何日か続くと、明らかに記憶力や認知能力が衰えることが分かっています」と、RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック(横浜市港北区)の白濱龍太郎院長は話す。

しっかり眠っている人は記憶力が高い

 特に記憶力をキープする上で睡眠は大切だ。

 一夜漬けでテストを受ける場合、完全な徹夜(完徹)はいけないという話をよく聞く。「記憶してからいったん眠ることで記憶が定着するので、ずっと起きているよりも、間に睡眠を挟んだほうが覚えている率が高くなります」と白濱院長。寝る間を惜しんで英単語を覚えても、忘れてしまえば意味がない。それより、少しでも眠ったほうがいい。

 「記憶を司るのは脳の海馬という部分ですが、睡眠時間が少ない子供はこの海馬の体積が小さくなっている。成人を対象にした研究でも、しっかり睡眠時間を取っている人のほうが記憶力が高いというデータが出ています」(白濱院長)

 米国で120人の高校生を対象に、「睡眠時間と成績の関係」を調べた研究もある。

 それによると、睡眠時間が7時間半くらいと長く、就寝する時刻が10時半ごろと早い生徒ほど成績が良かった(下グラフ参照)。デキる生徒は早くベッドに入り、たっぷりと眠っている。睡眠時間を削って勉強するのはつらいだけでなく、効率も悪いということになる。

睡眠時間が長く、就寝時刻が早い生徒ほど成績がいい
睡眠時間が長く、就寝時刻が早い生徒ほど成績がいい
米国で120人の高校生を対象に、「睡眠時間と成績の関係」を調べた研究の結果。睡眠時間が7時間半くらいと長く、就寝する時刻が10時半ごろと早い生徒ほど成績が良かった。(Child Dev. 1998 Aug;69(4):875-87)
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 それは若者に限った話ではない。記憶力や判断力を高め、仕事のパフォーマンスを上げるためにも、しっかり睡眠を取ることは大切なのだ。

睡眠不足はアルツハイマー病の発症リスクを高める

 記憶力が落ちるだけではない。恐ろしいことに、「慢性的な睡眠不足は将来の認知症にもつながる」と白濱院長は警告する。

 厚生労働省の推計によると、2012年の時点で認知症患者は約462万人いて、65歳以上の高齢者の15%を占める。2025年には700万人に達すると予想されている。

 認知症には「脳血管性認知症」や「レビー小体型認知症」などもあるが、圧倒的に多いのはアルツハイマー病だ。これは「β(ベータ)アミロイド」(アミロイドベータ)というたんぱく質が脳にたまって、脳の神経細胞を破壊することで起こる

 今のところ、なぜβアミロイドがたまるのかは分かっていない。そのため、アルツハイマー病の確実な治療法もないとされてきた。

 しかし、予防する方法がまったくないわけではない。

 「たまったβアミロイドは睡眠中に処理されます。年をとるとメラトニンというホルモンの分泌が減り、眠りが浅くなるため、βアミロイドがたまりやすくなる。日中に増えたβアミロイドを消すためには6時間半以上の睡眠が必要です」(白濱院長)

 それ以下しか眠らない日が続くと、たまったβアミロイドを処理しきれない。返せない借金のように、どんどんβアミロイドが増えていき、アルツハイマー病を発症する危険性が高まるというわけだ。

 実際、「睡眠時間が短い人はアルツハイマー病の発症率が高いことが分かっている」と白濱院長。2015年には、脳内にβアミロイドが増えると睡眠の質が悪くなり、さらにβアミロイドがたまりやすくなる悪循環を引き起こすことを示唆する研究結果も発表されている(Nat Neurosci. 2015 Jul;18(7):1051-7)。

30分程度の昼寝で発症リスクは5分の1に!

 とはいえ、激務に追われるビジネスパーソンには「6時間半の睡眠」をコンスタントに取るのが難しい人も少なくないだろう。

 そういう人は、わずかな空き時間を見つけて「昼寝」で補おう。10分か20分の昼寝で脳の疲れは想像以上に取れる。

 昼寝にはアルツハイマー病の予防効果があることも確認されている。国立精神・神経医療研究センターの調査によれば、「30分程度の定期的な昼寝」の習慣はアルツハイマー病のリスクを20%にまで減らすという。

 ただし、1時間以上の長い昼寝は逆効果だ。

 「アルツハイマー病の患者は3時間くらい昼寝している人が多い。たくさん眠ればそれだけβアミロイドが減りそうな気もしますが、おそらく長時間の昼寝は夜の睡眠に悪影響を及ぼすのでしょう」と白濱院長は推測する。

 基本は毎日6時間半以上眠ること。睡眠不足のときは短時間の昼寝で補う。バリバリ仕事をするとともに、将来のアルツハイマー病を防ぐためにも、しっかり睡眠を取ることを心がけてもらいたい。

白濱龍太郎(しらはま りゅうたろう)さん
RESM(リズム)新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック 院長
白濱龍太郎(しらはま りゅうたろう)さん 筑波大学医学群医学類卒業。東京医科歯科大学大学院統合呼吸器病学修了。東京共済病院、東京医科歯科大学附属病院勤務を経て、2013年より現職。日本睡眠学会認定医。丸八真綿研究センター所長。著書に『病気を治したければ「睡眠」を変えなさい』(アスコム)、『図解 睡眠時無呼吸症候群を治す! 最新治療と正しい知識』(日東書院本社)など。

この記事は日経Gooday 2016年1月20日に掲載されたものであり、内容は掲載時点の情報です。

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